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著名人が語る「私のこだわり空間」06




イラストレーター こぐれひでこさん

イラストレータとして雑誌、テレビなどで活躍の こぐれひでこさん。衣・食・住すべてに「自分たちらしさ」を 創造するこぐれさん夫妻が、初めて造った「ちょっとヘンな家」とは?
イラストレーター こぐれひでこさん
東京学芸大学卒業後、パリで服飾デザインを学び、帰国後デザイナーとして10年間活動の後イラストレーターに。パリにも家を持つほどのパリ好き、パリ通。著書に『こんな家に住んだ』(立風書房)『パリを歩こう』(東京書籍)など多数。1947年埼玉県生まれ。



おしゃれな街、代官山の一角。どう見ても倉庫に見える建物の外階段を3階まで上ったところに、こぐれさん夫妻の住居があります。中に進むと、いきなり目にとび込んでくるのが中央を貫く長い通路。この通路をはさんで北側の棟に寝室・バスルーム・こぐれさんのアトリエ、南側の棟にキッチン・ダイニングという間取り。

「これがすべてです! 普通だったら、これだけの通路のスペースがあるのならリビングを造りますよね。でも私たちは、この通路のようなテラスにぞっこん惚れ込んでしまったのね。リビングが無くっても、雨にぬれてもいいじゃないのって」

通路への思い入れは、こぐれさんが一番気合を入れたという床のタイルからもうかがえます。 「あんまりキチンとしたタイルにしたくないねって。それでだらしない<^イルを買いにモロッコまで行きました。少し欠けていたり釉薬(ゆうやく)
がはげていたり。でもその出来そこないのタイルが私たちにはチャーミングだった。

新聞チラシの間取り図に「私だったらこうするな」と、赤ペンで修正するのが趣味というこぐれさんです。18年間住んだ家を建て替え、初めて一から家づくりをするに当たっては、並々ならぬ思いが。

「私は密閉された場所というのが苦手。今までマンションに住んだことがないのもそれが原因だと思うの。だから、とにかく開放的で空気が流れる家。家の中に空気のよどんだ場所を造りたくなかったのね」

というわけで、丸見えの浴室、仕切りのないトイレ。希望通りちょっとヘンな家ができました。

キッチンから向かいのバスルームを眺めたところ。「浴室が丸見え、トイレも半分丸見え。やっぱりヘンな家でしょう? でも開放的で気持ちいいわよ」。

倉庫のような素っ気無い外観もこぐれさんのお気に入り。1、2階は夫(写真家の小暮徹氏)のスタジオ。

ダイニング側から見たキッチン。鍋やフライパン、グラスなどはぶら下げ収納で、そのまま装飾にもなっています。ぶら下げ用のフックなどはパリで探したもの。

この家の建て替えについての一部始終を書いた近著『私んちにくる?』(扶桑社)も好評。
ベッドルームから浴室の先のアトリエを見たところ。左の絵は夫の徹さんの卒業制作。
アトリエで。「開けっぴろげな性格に見られがちだけど、全然違います。仕事は1人じゃなきゃできないし、距離を保ってつき合うのが私の基本姿勢ですね」。
こぐれさんが家の話をするとき、主語は「私」ではなく、「私たち」になります。それに、取材中も夫のことを「とおる君」と呼んだり「こぐちゃん」と呼んだり。何だかとても仲が良さそうです。なれ初めなど聞いてもいいわよ、という雰囲気――。

「大学の美術学科に入学したら同じクラスにいたんですね、彼が。学籍番号がこぐれ、こしば(ひでこさんの旧姓)で並んでいたっていうだけですよ(笑)」

サラリと答えながらも満面笑顔のこぐれさん。卒業後まもなくして結婚。そして3年後の1972年、それぞれの志を抱いて2人のパリ生活がスタートしました。こぐれさんはパリで3年間服飾デザインを学び、帰国後は既製服の会社を起業。デザイナーとしての活躍が始まります。

「そうねぇ、何もかもパリが出発点ですね、私たちの」

私たち――。「開かれた家」というのは自然と仲良しなだけでなく、夫と仲良し、家族と仲良しの家のようです。

寝室の撮影にも気軽に応じてもらいました。通路側は全面ガラスの明るい部屋。錬鉄製でフレームがアラベスク模様のベッドが2つ並んだだけのシンプルさ。

「ここはわが家で唯一クツを脱いで横になれる場所なんです。窓には木綿の2枚重ねのカーテンをつけているけれど、それでも朝は早く目が覚めますよ。健康的でしょ」


洋服やバッグ類などは寝室に隣接したクロゼットへ。このクロゼットはコンテナで、主建築にぴたりとくっついた構造になっています。建物が倉庫のように見えたのは、2階と3階に合計4個くっついているコンテナの外観だったのです。



こぐれさんは現在、インターネットの人気サイト、カフェグローブで『ごはん日記』を公開中です。毎日食べたものをポラロイドで撮影し(現在はデジカメ撮影)、コメントを添えて日記風に紹介するというもの。自宅で作って食べたものも外食も、超手抜きから、豪華な食事まですべてです。

「食事にしても洋服にしても住まいにしても、作り過ぎ、キマリ過ぎというのがイヤなの。人間もそうかな(笑)。いろいろな要素がバランスよく混じっている、というのが一番好き

そして、もう1つイヤだと思うのが見栄っ張りに見えること。

「この家もね、体面を重んじるような人から見ると、あんな家イヤよっていう家だと思う。だって、家づくりというのは外から見える部分に一番お金をかけるというでしょ? 私にはそういう発想はないから、そんなところにお金をかけるのなら、自分たちが気持ちよくなる場所にかけたいなと思う。世間一般の評価から外れていても、自分にとって気分がいいということを最優先に考えたいですね」


こぐれさんの興味は、20冊近い著書が示すように衣・食・住のすべてにわたります。長い間、ずっと興味を抱き続けていられるのはなぜでしょうか?

「だって、全部自分のことですもん。自分を取り囲む環境じゃない。それをなるべく楽しくしていたいからですね。本人が気持ちよくない限り、向かい合っている人も気持ちよくないでしょ」

よどんだ空気が苦手というこぐれさん。開かれた家は、空気が流れる家であると同時に、イキイキとした日常生活を外に向けて表現する場でもあるようです。

南側の棟のキッチン横。遠くの街の風景を、1枚の絵画のように切り取る設計。

ある日の『ごはん日記』から。撮影の場所は、キッチンの調理台の上や通路のテーブルの上など。自慢のモロッコタイルも度々登場します。 カフェグローブのURLは http://www.cafeglobe.com。

ある日の『ごはん日記』から。撮影の場所は、キッチンの調理台の上や通路のテーブルの上など。自慢のモロッコタイルも度々登場します。 カフェグローブのURLは http://www.cafeglobe.com。

バスルームから寝室を見たところ。ガラス越しにお日様がさんさんと差し込みます。テラスからは丸見えですが「どうせ2人しかいないんだから」と開放感を優先させました。さすがにトイレにはつい立を用意。ランダムに貼られた4色のタイルが印象的です。

写真= 林雅之
PHOTO=Masayuki Hayashi
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