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ホーム > 暮らしの役立ち情報 > 著名人が語る「私のこだわり空間」 > 五感に心地いい家 服飾評論家 深井晃子
著名人が語る「私のこだわり空間」15




服飾評論家 深井晃子さん

服飾評論家として、パリ・コレの解説などで活躍の深井晃子さん。
東京、京都、浜松に加えて、パリ、ミラノなど世界各地を移動する超多忙な日々を支える深井さんの「巣」を訪ねます。
服飾評論家 深井晃子さん お茶の水女子大学大学院修士課程修了。ソルボンヌ大学留学。静岡文化芸術大学教授。京都服飾文化財団理事、同チーフ・キュレーター。著書に『ジャポニズム・ファッション』(平凡社)『ファッションブランド・ベスト101』(新書館)など多数。岡山県生まれ。
3階のリビングで。晴れた日には富士山が望める絶景。窓を隠し框(かまち)に引き込めばさらに開放感があふれます。皮、布、木、石…様々なテクスチャーが混在する空間。
世界ファッションの流行をリードするパリ・コレクションの解説など、服飾評論の第一人者である深井晃子さん。キュレーター(後述)、大学教授、本の執筆など多方面 でご活躍です。現在、週のうち京都2日、浜松2日、東京の自宅で過ごすのは3日だけという生活。多忙を極める深井さんにとって、自宅で過ごす時間とは?

「東京にいる3日のうち1日は、外で人に会い、パーティに出席することも多いから、自宅にいるのは2日間だけということが多いです。だからこそ帰ってきて本当に安らげる家を造りたいと思いました。週末には地中海にいるように感じられる家にね」

その思いの発端は、深井さんがパリ第4大学(ソルボンヌ)へ留学中にご主人と訪れた南フランスの小さな村にありました。

「この家を私たちは、カップ・ダイユ(Cap d'ail)って勝手に呼んでいるんですれど、フランス語でにんにく岬という意味です(笑)。結婚してパリに住んでいたころ、パリは美しい街なのだけれど、冬場はどんよりとした曇り空が毎日続いて、少しうっとうしいわけです。あるとき南仏に行って、光がパリとは全然違っていることに衝撃を受けました。この光は何だ! パラダイスだと思って、それが2人の心に焼き付いてしまった。いつか私たちもこういう光あふれる家を、どうしても建てたいなと思いました」

強烈な印象を受けた日から、約20年。探し求めた土地は、多摩川を一望する高台に見つかり、建築家であるご主人の設計によって、「にんにく岬の家」は完成しました。地上3階、地下1階。最上階のリビングからは、深井さんが「本当に気に入っている」という眺望が広がります。ただ地中海と違うのは、その先に富士山がそびえていることでしょうか。
ダイニングの飾り棚。右端の写 真立てには、家の名前の由来となった南仏の小さな村カップ・ダイユで撮ったご夫妻のスナップ写 真。

玄関のある北側外観。1階は建築家であるご主人のアトリエ、2階が寝室、3階がLDK。向かって右側の階段を下りると、地階にある深井さんの仕事場へ続くもう1つの玄関があります。

地下の書斎。ホールから眺めると、正面 に額縁のような窓が見えます。黒い棚の先が仕事机で、顔をあげると庭の松の枝や緑が目に入るという設計。「浮世絵みたいでしょ」

リビングから続くベランダには緑がいっぱい。アンティークのテーブルと椅子は西村さんのお気に入り。
この家を建てるとき深井さんが要望したのは「地下を書斎に」ということでした。『20世紀モードの軌跡』『名画とファッション』など、深井さんの著書は多くが服飾の歴史をひも解きながら執筆されるもので、膨大な資料が必要です。写 真が多くて重い資料の重みに床が耐えること。また、書くことが大好きという深井さんにとって、地階は静かで集中できる書斎にもってこいの場所でもあります。

「朝からこの部屋にこもって調べ物をしたりパソコンに向かったり、気がつけば夕暮れということもしばしばです。そんなときには、庭を眺めながらアペリティフ(食前酒)をいただいてパソコンで疲れた目を休め、リフレッシュします。今はこれもカリブを旅したときに覚えたラム酒にシロップを加えたものが気に入っていますね」

その書斎の一角が表紙の写真です。地下とはいえ緑が目に優しく、右手にある窓を通 して風が皮膚に優しく、静かでありながら庭の鳥の声が耳に優しく。コンセプトどおり「人に優しい」住まいとなっています。




京都での深井さんの顔は、京都服飾文化研究財団のチーフ・キュレーター。衣装の展覧会を企画し、開催していくのが主な仕事です。

「子供の頃から洋服は好きで、母が中原淳一のスタイルブックを持って洋服の仕立てに行くのについていって、一緒に作ってもらっていた憶えがあります。大学では服飾史を学んだけれど、それを仕事にという積極的な思いはなく、挫折ばかりしていましたね(笑)。ソルボンヌで美術史を学んだのも大学を卒業してからしばらくたってから。パリでは展覧会をたくさん見る機会があって、あぁ展覧会を企画する仕事って面 白そうだな、ファッションが好きだから美術とファッションをつなぐ仕事ができないかと思うようになりました」

深井さんがパリから帰国した1970年代後半は、三宅一生、高田賢三など日本人デザイナーがパリを舞台に一大ブームを巻き起こし始めた頃。深井さんは「これから日本はファッションの世界が面 白くなりそうだな。デザインの世界では彼らがリードしているけど、ファッションを客観的に見ていく仕事なら私に向いていそうだ」と感じ、ちょうど設立されたばかりの京都服飾文化財団に飛び込みます。以来20年、「モードのジャポニスム展」など多くの衣装展覧会を国内外で成功させてきました。

「長い間ファッションを見てきて思うのですが、日本は戦後まず手っ取り早くきれいに見せるために“衣”だった。次は“食”、ものすごい食ブームが続いていますよね。でも衣食が足りて、次のステップとしてこれからはもっと住むことに目を向ける時代になる気がしますね。すでにその兆しは見えてると思いますが」

過ごす時間は短くても、自分のテイストでまとめた心地よい家。そこでエネルギーを蓄え、深井さんはまた重いトランクを手に世界を駆け回ります。

書斎横のコーナー。地階とは言っても庭が見える明るいこの場所は、1日中書斎にこもって原稿を書くことの多い深井さんにとって、「夕方、軽く食前酒などいただきながらホッと一息つく」そんなコーナーとなっています。室内にも手のかからない観葉植物を置いて。
「モード(流行)を先見できるのは、歴史がよく分かっているから」という深井さん。膨大な資料が知識の奥深さを物語ります。

1階に上がるらせん階段。もっぱらご主人と2匹の猫が使用。

ダイニングからキッチンを眺める。カウンターには木が使われていて温かみを感じさせます。「美味しいものは力になる」が深井さんの哲学。
写真=田中 誠
photo=Makoto Tanaka
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