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ホーム > 暮らしの役立ち情報 > 著名人が語る「私のこだわり空間」 > スローライフが心地いい 刺しゅう作家 青木和子
著名人が語る「私のこだわり空間」18




刺しゅう作家 青木和子さん

庭好き、花好きであればある程、魅力のとりこになる青木和子さんの刺しゅう。静かで明るい独自の作風が生まれる北欧スタイルのご自宅とアトリエを拝見します。
刺しゅう作家 青木和子さん 1976年武蔵野美術大学工芸・工業デザイン科卒業。日本カラーデザイン研究所に勤務の後、スウェーデンに留学。テキスタイルの広い範囲(刺しゅう、織り、プリント)で作品を発表。著書に『ワイルドフラワーガーデン』(文化出版局)『愛しの庭をスケッチして』(雄鶏社)など多数。
アトリエ前で。右隣に母屋と接していますが「あえて離れにし、気持ちを切り替えています」。撮影は7月初旬、梅雨の晴れ間に恵まれて。
庭をテーマにした刺しゅうで人気の青木和子さん。『NHKおしゃれ工房』の表紙を1997年から4年間飾り、手芸ファンならず園芸ファンからも多くの反響をよびました。刺しゅうの本の出版、展覧会のほか園芸雑誌の取材も多く、針仕事や庭仕事が「時間がかかる」ことを考えると、相当に多忙な毎日が想像されるのですが…。

千葉県のご自宅は、緑と花々に包まれた欧風の建物。ひと目で丹精込められているとわかる庭は、右手の母屋、正面の白いアトリエと美しく調和しています。

「アトリエはあえて離れにしています。母屋にくっつけないの?とよく言われるのですが、いったん庭に出てからアトリエに行き来するのがいいみたい。でも、たったこれだけの距離なのに、花の美しさに見とれて眺めたり、スケッチに夢中になったり写真を撮ったりして、なかなかアトリエにたどり着けないこともあります(笑)」

美大を出た後、色にかかわる仕事がしたくて日本カラーデザイン研究所に勤めた青木さんですが、本格的に織の勉強をするためテキスタイルの国、スウェーデンへ留学。寮生活を送りながら過ごした20代の1年間が、その後の生活スタイルの原点となっています。

「朝から晩まで勉強で、すごく忙しかったんですけれど、どこかゆったりとした1年でした。授業はハードでしたが、10時と3時には必ずお茶の時間があるんです。教室とは別にティールームがあって。よく散歩もしましたね」

勤勉なのに休むときはキチンと休むスウェーデンの人たち。勉強や仕事も淡々と計画的にこなしていく。それまで締め切り間際に慌ててやるタイプだった青木さんも、いつかそのペースを体得しました。
制作途中のバラの刺しゅう。バラの名前も刺しゅうするのが青木さん流。

通路側から玄関を眺める。建て替えから15年をかけて、少しずつ理想の庭に近づけました。左手には40年前に青木さんのお父様が作られた庭が残っています。

ボーダー柄がトレードマークの青木さん。
家が大好きという青木さんは、留学中もクラスメートたちの自宅や下宿先を方々訪ねました。

「それは、もうびっくり。離婚して子供を育てながら学校にきている女性の家へ行くと、外観はありふれたアパートなんですが、中に入ると部屋をピンクでまとめて驚くほど素敵にしていたり。他にもホモセクシャルの男子学生が、下宿先は古い家なのにインテリアを工夫して上手に暮らしていたり。生き方の選択の広さを感じると同時に、インテリアや刺しゅうも決まりにとらわれないで自由に表現していいんだと思うようになりましたね」
そして帰国後、結婚して実家の敷地だった現在の場所に住み始めたとき、青木さんが最初に手がけたのは母屋の建て替えではなくアトリエづくりだったそうです。白くてかわいい小屋風のアトリエには、大きな窓と天窓が切られています。例えば1つのバラの花を刺すのにも、何種類ものピンク色を配す青木さんの刺しゅうは、微妙で繊細な色合わせが持ち味。

「だからアトリエで制作するのは朝10時から夕方5時くらいまで、日の光のある時間だけです。残業はしません、スウェーデンの人と同じです(笑)」

15年前に建て替えた母屋にも北欧デザインを随所に採り入れました。本当はスウェーデンタイプの家を建てたかったそうですが、当時はまだ北欧住宅は高価で種類も豊富ではありませんでした。

「オークの床とペアガラスだけはと思って実現しました。天井も少し高めになっています。狭くても天井が高いと広く感じますよね。そして何よりスウェーデンの家の素敵さを支えているのは掃除好きだということ。この家もなるべくシンプルに、ナチュラルな木の色と白の配色でまとめました」

アトリエ奥から入口を見る。右手の大窓の外は日除けのために植えたムクゲの木が成長して緑の壁に。天窓には夏は刺しゅう道具でもある接着芯(不織布)を張ってブラインド代わりに。「冬など、仕事をしていてパッと上を見上げると、雲や飛行機が見える。天窓を通してみると飛行機と自分が特別なつながりがあるように感じられて楽しい」



庭仕事をする青木さんと、刺しゅうをする青木さん。どう違うのでしょうか?

「それが、あまり変わらない。庭仕事には特に締め切りがない、っていうことくらい(笑)。どちらも頭の中にデザインがある程度あって、色やテクスチャーをコーディネートしながらそれに近づいていくというプロセスは、刺しゅうも庭づくりも似ています」

いろんなものが集まって1つの世界を創っていく。これは、青木さんの作品に共通した特徴です。大輪のユリやバラだけが主役となってというものはなく、親しみのある野の花たち、種、土、そこに集まる虫たち、ガーデニングの道具までが1つの額の中で楽しげに語りあっているといったもの。

「モチーフはすごく身近なものなんですけど、それに関わった人でなくては発見できないようなところに刺しゅうをしていたりするので、そこがこたえられないっておっしゃいますね。私自身も作っていてワクワクしないと続かない。庭仕事にしても刺しゅうにしても心が躍るというのか、その心が躍っている感じをカタチにするのが私にとって一番楽しいことだし、たぶん見てくださる方も庭好き、花好きな方であれば、その心躍る気持ちが蘇ってきて、共感してもらえるのだと思います」

身近な感動にこだわりつづけ、自分のペースで夢に近づいている青木さんの暮らし。忙しくてもスローな生活には、効率最優先の現代人が見失いがちな「心の躍動」があるようです。


リビングから玄関ホールを見る。正面のタピストリーは縦1メートル、横2メートルの大作『H氏の庭』。子供が小さい頃に読んだムーミンの絵本に出てくるヘムレンさんの庭をイメージして創作したもの。最近、自分の庭がそのヘムレンさんの庭に似てきたそうです。
色をテーマにして作った新作「身近な赤と身近な青」。イギリスに旅したときに見つけたミルクのパッケージや娘さんの部屋にあったヘアピンなどを集めた楽しい作品。

タペストリーのかかる玄関ホールから庭を見る。

照明、椅子、ラグなどのインテリアも北欧のもの。「冬の長いスウェーデンでは室内にいる時間が長く、窓辺をとてもきれいに飾ります」
写真=林 雅之
photo=Masayuki Hayashi
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