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著名人が語る「私のこだわり空間」20




古星術研究家 岡本翔子さん

女性誌の星占いなどで活躍する心理占星術家、岡本翔子さん。占星術を学ぶうちにたどり着いたアラブの世界。モロッコ建築のエッセンスを取り入れた「春分の日の家」とは──。
古星術研究家 岡本翔子さん 1980年代に英国に留学。英国占星学協会で心理占星学を学ぶ。英国占星学協会会員。『CREA』(文藝春秋)など多数の雑誌に執筆。翻訳などのかたわら占星術にゆかりの土地を旅しながら、その土地に伝わる占星術を研究している。著書に『心理占星学入門』(扶桑社)、『占星学』リズ・グリーン著 鏡リュウジ共訳(青土社)他。
床暖房の入った素焼きタイルに座り、車座になってミント茶を飲む。壁をくり抜いて作ったエキゾチックなモロッコ風サロン。ここで昼寝をすると必ず変わった夢を見るそうです。ミュージシャン&エンジニアのご主人(町田裕史氏)は岡本さんの最高の遊び相手。
女性誌に必ずというほど載っている星占いのページ。自分の星座をチェックするのに余念がなくて、執筆者の名前は案外知られていないようです。岡本翔子さんは、女性誌の星占いで活躍する他、西洋の心理占星学の本を翻訳して紹介するなど、日本の心理占星術のパイオニア的存在です。

仕事の拠点となる東京の自宅とは別に、岡本さんには山中湖にもう一軒の家があります。ユニークなのは、訪れる日。

「私たちがここで過ごすのは春分の日や秋分の日。それから新月や満月の日などです。この場所に土地を買って最初にしたのは、春分の日に夜明けの光が差す方向の確認だったんです。古代の建造物の多くは、天体の動きを基に設計されています。それにならって占星術の基礎となる春分点を、象徴的な形で設計に取り入れたいと思いました」(その思い入れは、下で紹介する「3本のスリット窓」で実現)。

当初は英国風の建物を考えていた岡本さん。占星術を学んだ国でもあり、家具もすべて英国アンティークだったからです。ところが、ある日洋書で目にしたモロッコのインテリアに一目惚れ。モロッコ風の家づくりが始まりました。

「友人に建築家が3人いるんです。魚座の建築家とならものすごく楽しめそうな気がしたけれど、盛り上がりすぎて10年後くらいには飽きちゃうかなと(笑)。結局、シンプルな設計を得意とする友人に決めました。装飾的なモロッコ風とミニマルデザインを融合したらどうなるのか興味もありました」

その建築家は牡牛座。地に足の着いた牡牛座は、岡本さんたちの遊びごころを受け止めながらも実用的で感覚的に快適な家を提案してくれました。

※ミニマルデザイン:装飾や機能を最小限にまで排したデザイン
玄関ホールとリビングは、間仕切り風の壁でゆるやかにつながっています。バラと柊をモロッコで買い集めた器に。

赤みがかった土壁に小さな入口が1つ。外観がそっけないのもモロッコスタイル。夜、ライトアップすると、昼間はあまり目立たないスリット窓の部分に陰影ができて幻想的。


春分の日の光が入る角度につけた3本の窓。細長いスリット(すき間)窓から差す光が、マラケシュ色の壁を照らして、外からは想像できない豊かな空間。
2階から玄関ホールを眺めたところ。らせん階段は星座の数と同じ12段。「占星術の基本数字、3と4と12を、建築家さんがあちこちに取り入れてくれました」
さて、3本のスリット窓はリビングと2階の寝室にありました。外観からはほとんど開口部がないように見えるので、部屋に入った瞬間の客人の驚きは、きっと岡本さんの企みどおりでしょう。幅20センチに満たない細長い窓は真東に向き、斜めに差し込む光が土壁を照らしています。

「春分の日の朝日が、このスリットを通して差し込むんです。ここから入る光が絨毯や床に光の帯を描くのもきれいですよ。壁の色はマラケシュの街の色。すべての建物はこの色なんです。こんな風にムラに塗ってもらうのも地元の大工さんたちに何度も練習してもらって(笑)。」

占星術的遊びごころは、数字にも表われています。たとえば玄関正面のらせん階段は星座の数と同じ12段。その他にも、占星術では12の星座が地水火風の4つに対応してそれぞれ3つずつの星座に分類されることから、4や3という数字もニッチの棚の段数など随所に使われています。

山中湖といえば典型的な避暑地。気象条件の異なるモロッコ風との折り合いも気になるところです。

「寒冷地では窓を大きくして光を取り入れるのが一般的ですよね。でもこの家は壁をできるだけ残したかったので、窓や入口は最小限。その代わり、効果的に採光できるようにスリットや天窓やハイサイドをつけていますから明るいでしょ? 寒さについては、テラコッタのタイルに床暖房を入れたので、冬でも素足で過ごせます」

モザイクタイルは実はバスルームだけ。「パソコン上で青と緑のタイルの配色を、何度も何度も試した(笑)」

デザインが美しくて、しかも使えるキッチンにこだわりました。英国アンティークのテーブル上は手作りのパンとタジン鍋。
壁を大きくくり抜いた中にさらに小さなニッチ(飾り穴)。廊下の先にキッチンが見えています。

現在、アラビア語の学校に通い、年に2、3度はモロッコを訪れる岡本さん。モロッコ人の友人に教わったクスクス。


実は子どもの頃から占い全般に興味がなかったという岡本さん。その岡本さんが1980年代初めにロンドンにわたり、英国占星学協会でユング心理学の流れを継ぐ心理占星学と出会ったことで、一転します。

「イギリスで本格的に勉強してみると、占星学が古代の心理学の集大成だということがわかって、なんて奥が深いんだろうと。それからがぜん面白くなりましたね。それまでの日本の占いというと、あなたは何歳で結婚する…ばかりでしたから。私にとっての占星術は、自分という1つの小宇宙の中にある星の言葉に耳を傾けること。自分はこういう風に生きてきたけど、古代からの占星術は何と言っているのかな、というのを調べて、その整合性やギャップを楽しむ。占星術は自分の心という広大な宇宙を旅する上での、ツール(道具)のようなものなんです」

占星術の歴史をさかのぼってみると、カレンダーの語源は、「月が出たぞー」という古代バビロニアの神官たちの言葉だとか。ストレスが多く、心の病を抱える人が多くなった現代だからこそ、日々月を眺めてみよう。月の満ち欠けを眺めることによって、月と同調して生きている、人間が本来持っているリズムを取り戻そうと、岡本さんの暮らしや著書は語っています。モロッコという異文化の国と日本、占星術の世界と現実の世界。リズムの異なる世界を、バランスをとりながら行き来することを楽しむ岡本さん。遊びごごろって、いつの間にか固定した生活のリズムを、ちょっとはずすことなのかも知れません。
ガラス戸に斜めに渡した桟が、テラコッタの床に影の帯をくっきり描きます。岡本さんの著書から、(左)『心理占星学入門』は、自分でバース・チャート(出生図)を作っていくという本格的なもの。
(右)は近著の『MOON BOOK2004』(ソニー・マガジンズ)。2004年の毎日の月の位相と月が位置する星座が記されたダイアリー。


玄関をはさんで右手にリビング、左手にダイニングという間取り。表紙の写真はリビングからダイニング側を見たところ。アーチ形の壁がイスラム建築を象徴しています。「玄関のない家にしたかった」という通り、地面と段差もありません。


写真=林 雅之
photo=Masayuki Hayashi
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