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ホーム > 暮らしの役立ち情報 > 著名人が語る「私のこだわり空間」 > 心と体にやさしい生活 食文化研究家 北村光世
著名人が語る「私のこだわり空間」22




食文化研究家 北村光世さん

食文化研究家として、世界各地のハーブ料理をいち早く紹介し、自らも庭で育てて家庭料理を楽しむ北村光世さん。湘南の風がハーブの香りを運び込む、心にも体にもやさしい家とは。
食文化研究家 北村光世さん
サッカー選手でも体にこたえるイタリア往復を、昨年は6回も。「翌朝から仕事をしていますよ」と北村さん。土間の奥の段差を上がったところは、キッチン・ダイニング・リビングとひとつながりの部屋です。
ハーブやオリーブオイル、唐がらしを使った料理の本に、多くのファンを持つ北村光世さん。著書に出てくる料理に使われているハーブは、すべて北村さんご自身が庭で育てたもの。鎌倉の高台にあるご自宅の庭には、ローズマリーやセージなど50種類以上のハーブが栽培されています。

庭から靴をはいたまま室内に入ると、そこは吹き抜けの大きな土間。愛犬ブラッキーがソファに陣取り、そこが家中で一番快適な場所であることを教えてくれます。

「25年前に東京からこの土地へ引っ越してきました。自然と一体になる家というのがテーマで、当時出始めのソーラーシステムに興味があったけど、まだまだ高価。お金をかけずに太陽の光を上手に利用する方法を考えてつくったのが、この空間なんです。吹き抜けにして南面は全面ガラス張りにしましょうと。土間という、外と内の中間の場所にこんなに広い空間をとった。ここがこの家で一番贅沢な場所だと思いますよ」

その土間に敷きつめられているのは備前焼のタイル。冬場は太陽の熱を蓄えて床暖房のように暖かく、夕方になるとタイルから放出される暖かい空気が2階に上っていきます。だからダイニングと寝室以外は冷暖房もなし。
黒い板壁と瓦が印象的な外観。京都育ちの北村さんが、町屋のイメージを取り入れたもの。

庭のハーブを摘んで作ったハーブバターをパンにぬって。左上の紫色の花(ローズマリー)から右回りにチマ・デ・ラパ(菜の花系のイタリア野菜)、タイム、パイナップルセージ。「ハーブを混ぜるとバターが軽くなります」
「外国の置物や道具が多いので洋の印象ですが、いやいや、まさに日本の家です(笑)。備前焼のタイルにしても瓦にしても素材は日本のものですし、ふすまや障子などの引き戸を開放すれば風がぬける。私は家というのは食品と同じように土地の産物だと思っていますから。そこの空気や湿度に適応するものでなければ住み心地よくはならないんじゃないかしら」

初夏から秋にかけ庭のハーブが薫る季節になると、風が室内にもその香りを運び込んでくれます。


ダイニングの床は、ベンチとして使えるように切られています。「家具をできるだけ置きたくなかったから」。後年、建築家さんに特注した食器棚は、中の雑多な食器がくっきりとは見えないカッティングのガラスを使って。「みなさんに、自由に使って気にせずに収納してもらえる」アイデアです。
道路に面した玄関を入ったところ(左)と、その内扉を開けて階段下から土間のある1階、さらに2階に上る階段を眺めたところ。
この土間のユニークなのは、他のどの部屋よりも広いことと、もうひとつは家の真ん中にあって、すべての部屋とつながっていること。吹き抜けで屋根はあるものの、スペインやメキシコの建築に見られるパティオ(中庭)のようにも感じられます。1階は土間をはさんで片側にキッチン・ダイニング・リビングとひと続きの空間。もう片側に和室・洋室の2つの客間。プライベート空間と客室が土間によってゆるやかに分離された構成です。2階の寝室、浴室、息子さんの部屋(現在はアメリカ在住)から廊下にでれば、これまた土間をのぞきこめるという設計。

「大学で教えていたときには、学生を大勢自宅に連れてきて、庭のハーブを使って料理し、食べながらスペイン語を教えるということもやっていましたし、息子のお友だちや私たち夫婦の外国人のお友だち、本当に大勢の人が出入りし、泊まっていきましたね。ここは海が近いから夏場は海水浴目当ての人も多いのですが、ぬれて帰っても土間なら遠慮がなくていいみたいですよ」

部屋と部屋とをつなぐ通路であり、庭で収穫したハーブを乾燥させたり花や種をとる作業をする仕事場である土間。息子さんが幼いころにはスペイン語で日常会話をしていたという北村さん親子の、学習机としても、土間の机は活躍していたことでしょう。

このように工夫に満ちた北村さんの家ですが、実はすべて日本にある既製品ばかり。

「リビングのコーナー窓は特注ですが、それ以外は特注品のない家なんです。全部、日本で売っている既製品。私は家を建てるのって、組み合わせだと思いますね。あちこちから新しい物を持ってくるんじゃなくて、そこにある物をどう組み合わせていくかで、いくらでも面白い家ができる。漢字みたいだと思うんです。漢字も組み合わせによっていろんな意味がうまれるでしょ」

現在は家具がいろいろ増えましたが、建てた当時はできるだけ家具を置かない家にしようと考えました。たとえば、ダイニングからリビングへ続く床は一段低くして、ダイニングの床をベンチとして使える工夫をするなどです。窓や壁にステンドグラスを取り入れる人も多かった時代ですが、北村さんは色物のガラス瓶を窓辺に置いたり、収納棚に飾ることでステンドグラスの雰囲気をだしています。「そうすればときどき色を替えて楽しむことができるから。そのほうが私流」。


庭で摘んできたタイムやローズマリーの葉を刻み、パイナップルセージの赤い花を混ぜてハーブバターを作る北村さん。対面キッチンのカウンター越しに手際を眺めていると、いい香りがして幸せな気分に。

「ハーブってすごく得する植物。食べる人だけじゃなくて、調理する人も癒されるんですから。わざわざ精油を買ってアロマテラピーをしなくてもね(笑)。人間にやさしい植物だと思います」

ハーブを求めて各国を訪ね歩いた北村さんが、長い間通いつめ、ついに拠点となる家まで買ってしまった国。それがイタリアです。日本の家を木や瓦や焼き物でつくったように、北村さんはイタリアでは石造りの家を購入してリフォームしました。一昨年、食文化交流センターを設立し「これまでオリーブオイルやチーズやハムなど、美味しいものを食べさせてもらったイタリアに、今度は日本の食文化を紹介することで恩返しをしたい」と両国を往復する日々です。
リビングのコーナー窓を庭側から見たところ。「隣家が迫っているので、窓を低くしてカーテンをつけなくても中が見えないように設計されています」。色物のガラス瓶がステンドグラスの効果。

春まだ浅い季節にも、ローズマリーやボリジ(下)が濃い花色をつけていました。「忙しい生活でも、庭にハーブがあれば手早く体によい料理ができます」。


「基本的には創作ではなく、世界各地の伝統的なレシピ」という北村さんのハーブ料理を紹介した本の中から。右から、『ハーブでかんたん! クッキング』(河出書房新社)、『ハーブをめぐる旅』(平凡社コロナ・ブックス)、『わたしの唐がらし料理』(文化出版局)



食文化研究家。アメリカ・ミシガン州、ホープ・カレッジ卒業。青山学院大学で29年間スペイン語を教えた後、ハーブや世界各国の料理の研究に専念。2003年イタリアのパルマに食文化交流センターを設立。著書は『ハーブさえあれば』『オリーブオイルのごちそう』(文化出版局)など多数。1939年京都生まれ。


一段高いダイニングから土間、その先の和室を見る。2階には寝室とバス、現在は米国の大学に勤める息子さんの部屋。テーブル上のハーブは手前から乾燥させたコリアンダーのシード(種)、カモミール、うすべにあおい(マロー)。愛犬ブラッキー(メスの14歳)のいる場所が、その時間の一等席です。


写真=林 雅之
photo=Masayuki Hayashi
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